フランス軍兵舎跡地を、建築協同組合と木材チップ地区熱供給で自動車を持たない太陽光の街区に変えた
Vauban
2011年の州議会選挙でVauban地区の72.7%が緑の党に投票したことが報じられ、2023年と2024年には人口・車保有率などの現況データが独立媒体によって更新されている。
何をしたか
ドイツ・フライブルク市で、フランス軍の兵舎跡地を、住民が主体となる建築協同組合(Baugruppen)方式によって、自動車を保有しない暮らしを前提とした街区に転換した。街路の大半を駐車区画のない「遊び道」とし、周縁の2か所の集合駐車場を除いて自動車の乗入れを制限する一方、木材チップを燃料とする地区熱供給網とパッシブハウス基準の住宅を組み合わせ、建物の多くに太陽光発電設備を載せた街区として整備した。1996年に最初の住民が入居した。
誰が始めたか
跡地はもとフランス軍の兵舎で、1992年の同軍撤退後、連邦の不動産管理当局に引き渡され、一時はアナーキスト系グループに占拠されていた(Domus, 2023-09-27)。同記事によれば、住民は行政とともに再開発のあり方を議論し、あらゆる層の住民にとってのアクセスのしやすさと環境保護の両面での具体的な提案の実現を求めた。 その結果、1994年の都市計画競技でシュトゥットガルトの設計事務所Kohlhoff & Kohlhoffの案が当選し、その3年後に区画の売却が始まり、主に民間デベロッパーと協同組合に割り当てられた(同)。
WWF Jugend(2024-07-31)は、住宅の大半が住民どうしが任意に集まる建築協同組合(Baugruppen)によって計画・建設されたと書いている。 同記事によれば、駐車区画を持たない交通計画や高いエネルギー基準の実現もこのBaugruppenの取り組みに支えられており、当初から住民参加が重視された。同記事の参考文献欄には「Verein für autofreies Wohnen e.V. Freiburg(自動車のない住まいのための協会)」という団体名が挙がり、本文では「Autofrei-Verein」と略して呼ばれているが、この団体がいつ・誰によって組織されたかは書かれていない。同団体の敷地の一部が、のちに市民農園に転用された(同)。
いくらかかったか
参照した5本の出典のいずれにも、街区全体の総事業費は書かれていない。 funding_scaleをunknown_fieldsに申告する。
分かるのは、個々の住宅・区画にかかった費用だけである。 taz(2011-05-14、「Unter Ökos」)は、建築協同組合(Baugruppen)が建てたゼロエミッション住宅「クレー・ハウス」について、屋根の太陽光発電設備とシュヴァルツヴァルトの風力発電設備への出資により自ら消費する分のエネルギーを自給する仕様にしたことで建設費が通常より10%高くなったが、その追加費用は10年で回収できる見込みだと書いている。taz(2008-02-21)は、Vaubanで自動車を所有する住民は、街区の外縁にある2か所の集合駐車場のいずれかに駐車区画を購入しなければならず、その価格は2万ユーロを超えると書いている。同記事はまた、ドイツで最初の集合住宅型パッシブハウスに住むエネルギープランナーと同居人2人が、暖房と給湯に年間200ユーロに満たない額を払っていると書いている。
真似するなら最低何が必要か
第一に、駐車を街区の外に集約し、価格を意図的に高くする仕組みを先に作ること。 WWF Jugend(2024-07-31)は、Vaubanの街路の大半が駐車区画のない「遊び道」であり、自動車を持ちたい住民は街区外縁にある2つの駐車場のいずれかで区画を購入・賃借する仕組みになっていると書いている。taz(2008-02-21)によれば、その区画の価格は2万ユーロを超える。「集約駐車場+高い区画価格」という組み合わせが、住宅そのものを自動車前提で設計しなくて済む条件を作っている。
第二に、街区の熱源をエネルギー基準と同時に決めること。 WWF Jugend(同)は、Vaubanの熱供給が木材チップなどを燃料とするコジェネレーション設備(Blockheizkraftwerk)による地区熱供給網でまかなわれ、2000年以降はこれに加えて消費量を上回るエネルギーを生む「プラスエネルギーハウス」が建てられたと書いている。Domus(2023-09-27)も、街区の中核に廃木材など再生可能な原料を燃焼して熱と電力を作る発電設備があり、大半の建物に太陽光パネルが備わっていると書いている。
第三に、建設を住民の協同組合(Baugruppen)単位に分割すること。 WWF Jugend(同)は、住宅の多くが住民どうしが任意に集まった建築協同組合によって計画・建設されたと書いている。taz(2011-05-14、「Unter Ökos」)も、地区の社会福祉士(Quartiersozialarbeiterin)の話として、フライブルクの家賃が高い既存住宅地に住めない世帯が協同組合という形でまとまってVaubanに移った経緯を伝えている。
第四に、当初の計画で使い道が決まっていた土地にも、住民団体に委ねる余地を残すこと。 WWF Jugend(同)は、市が駐車場を建てる予定だった土地の一部が「Autofrei-Verein(本文中の表記)」の敷地であり、2013年に住民主体の市民農園「WandelGarten」に転用されたと書いている。
第五に、既存の建物を解体せず「再利用施設」として先に確保すること。 WWF Jugend(同)は、1998年に一部の兵舎建物が解体される一方、残りは改修されて「Haus-Recycling」と呼ばれ、街区センター「Haus 037」として保育所・飲食店・地区活動室・団体事務所に転用されたと書いている。
今どうなっているか
2024年7月時点で、WWF Jugendは、Vaubanに約5,500人が暮らし、平均年齢はおよそ33歳だと報じている。 同記事によれば、世帯の40%超が自家用車を持たず、ドイツ全体で人口千人あたり520台(2017年時点)の自動車があるのに対し、フライブルク市全体では495台、Vauban地区では191台にとどまる。街区内には約45台のカーシェアリング車両が配置され、400人超が利用しているという。同記事はまた、家賃が周辺の他の街区より高くなりがちで、社会的な階層の混じり方は比較的乏しいとも書いている。
2023年9月時点で、Domus(伊)は、フライブルク市が2021年に集計したデータとして住民約5,300人・平均年齢36.6歳と伝えている。 2021年から2024年にかけて人口が増えた可能性はあるが、2つの記事の集計時点は異なり、単純な比較はできない。
一方で、taz(2008-02-21)は、ドイツ初の集合住宅型パッシブハウスに住むエネルギープランナーの発言として、本来はもっとできたはずだと述べたうえで「市が街路の大半の向きを誤らせた」と批判したと伝えている。 この批判に対する市側の反論は、参照した出典には見当たらない。
taz(2011-05-14、「Unter Ökos」)は、2011年3月のバーデン=ヴュルテンベルク州議会選挙でVauban地区の72.7%が緑の党に投票したと報じ、州議会で緑の党会派代表となったEdith Sitzmann氏(2003年にVaubanへ転居)の「ここは環境への配慮が厚く、子どものための自由な空間もある、普通の街区だ」という発言を伝えている。
出典
- Ehrgeizige Ziele: Ökohauptstadt Freiburg | taz.de — taz(2008-02-21)
- Unter Ökos | taz.de — taz(2011-05-14)
- Zu Besuch im Freiburger Vauban-Viertel: Im Epizentrum der Ökorepublik | taz.de — taz(2011-05-14)
- How Freiburg went car-free - Domus — Domus(2023-09-27)
- Nachhaltige Stadtteile? Freiburg-Vauban macht's vor - WWF Jugend — WWF Jugend(2024-07-31)
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