市の投資予算の5%を、市民が出した事業に市民の投票で配る形にした
budget participatif de Paris
W. Arhip-Paterson は2021年3月4日に公開された論文で、パリ市の執行部が budget participatif を任期の成果の一つと位置づけたと書いている。同論文によれば、アンヌ・イダルゴは2020年の選挙で、投資予算に占める割合を25%に引き上げると提案した。
何をしたか
パリ市の投資予算の5%を、市民の投票で配分先を決める形にした。Localtis は2014年9月15日に、アンヌ・イダルゴ市長が翌日に12区で最初の回を始めること、市民が9月24日から10月1日まで優先すると考える事業に投票できること、任期を通じて4億2,600万ユーロ、年平均7,100万ユーロを投票にかけることを、AFP とともに伝えている。同記事によれば、初年度は市が用意した15の事業から5つ以上を選ぶ形で、翌年からは市民自身が出した事業が市の各部局の審査を経て投票にかかる。投票はパリに住む人なら国籍と年齢を問わずできる。Localtis は2015年12月1日に、パリの投票者が66,867人だったこと、これはグルノーブルの1,000人と単純には比べられないことを書いている。
誰が始めたか
この仕組みは1人の市長に強く結びついている。 W. Arhip-Paterson は2021年3月4日に公開された論文で、パリの参加型予算がアンヌ・イダルゴのものとして扱われてきたと書き、市の政治顧問が、これはイダルゴの考えであり、彼女が本当の推進力だと述べたことを引いている。同論文によれば、イダルゴは2014年の就任直後から、地域民主主義・市民参加・団体・若者を担当する助役 Pauline Véron とその班に、この政策を優先して進めるよう求めた。Localtis も2014年9月15日に、イダルゴが市町村選挙の運動で予告したとおり、市の投資予算の5%を市民の投票にかけるとして、9月16日に12区で第1回を始めることを AFP とともに伝えている。
ただし、前史がある。 同論文によれば、2001年にベルトラン・ドラノエが、住民の協議と参加(街区評議会、若者評議会、地域の事柄についての請願権、団体の集まり、地域発議の住民投票)を設けると掲げ、年に1回、予算について各区で公開の会合を開いていた。2014年より前に区の単位で参加型予算を試した社会党の区長も2人いる——2001年の任期に20区の Michel Charzat、2008年の任期に12区の Michèle Blummenthal である。同論文は、これらが参加者と結果の両面で限られたものだったと書いている。イダルゴが2014年に提案したのは、この流れの継続であると同時に断絶でもあった、というのが同論文の読み方である。
なぜ新しい道具が要ると考えたのかは、市の側の説明として残っている。 市の提供にもとづく2019年11月12日の事例票は、街区評議会や市民評議会といった参加の場はすでにあったが、市民の参加がその伝統的な輪を越えないと市のチームが見ていたこと、市長と Véron 助役が、最も遠いところにいる住民にも関わっていると感じてほしいと考えたことを書いている。同票によれば、イダルゴは2014年に、政治への信用の失墜に応え、市民が都市の問題を自分のものとして取り戻せるようにするためにこの仕組みを擁護した。
政治の側の後ろ盾は、人と組織の形になった。 同論文によれば、市庁舎の中央に6つの職を持つ参加型予算の担当班が置かれ、街区評議会のコーディネーター30人の職務内容が書き換えられ、市のすべての局に担当者の職が作られた。
いくらかかったか
総額は出典で割れている。 Localtis は2014年9月15日に、任期を通じて4億2,600万ユーロ、年平均7,100万ユーロと書いた。Localtis は2015年12月1日には6年で5億ユーロ(市の投資予算の5%)とし、Arhip-Paterson の論文も2014〜2020年の任期に5億ユーロ・投資予算の5%が割り当てられたと書いている(discrepancies に並置した)。
- 年あたりの額は、市の側の説明では1億ユーロである。 市の提供にもとづく2019年11月12日の事例票は、投資予算の5%にあたる年1億ユーロとし、そのうち3,000万ユーロを「庶民地区」に、1,000万ユーロを小学生・中学生向けの枠に取っていると書いている
- 実際に投資に回った額も同じ票にある。 2019年について、同票は8,730万ユーロの投資、うち3,750万ユーロが「庶民地区」向けだったとしている
- 初年度は上限つきだった。 Localtis 2014年9月15日によれば、初年度は日程が短かったため市が15の事業を並べ、そこから5件以上を選ぶ形で、上限は2,000万ユーロだった。同記事によれば、最も高いのは移動できる仮設のプール2つで800万ユーロ、最も安いのは公園で誕生日を祝うためのテントと遊具で40万ユーロである
- 区の側にも金の仕掛けがある。 Arhip-Paterson の論文によれば、2016年から、区役所が区の参加型予算に1ユーロ出すと市庁舎が2ユーロを上乗せする形になった
- 運営の人手は6人分と書かれている。 2019年の事例票は担当班を6人分(ETP)としている。ただし広報・プラットフォームの開発・投票所の運営にいくらかかったかは、参照した4本のどこにも書かれていない
真似するなら最低何が必要か
1. 政治の側の後ろ盾を先に置くこと。 Localtis は2015年12月1日に、グルノーブル・メス・パリのいずれでも投資予算の一部を市民に開くことが議員の公約に書かれており、政治の意思なしに参加型予算は無いという点で3市の見方が一致すると書いている。Arhip-Paterson の論文で Véron 助役の元官房長は、大きな参加型予算を持つための第一の条件は本物の政治的支持であり、それが無ければ辿り着けなかったと述べている
2. 専任の人手を市の側に作ること。 同論文によれば、市庁舎に6職の担当班が置かれ、街区評議会のコーディネーター30人の職務にこの仕事が加えられ、すべての局に担当者が置かれた。2019年の事例票も担当班を6人分としている
3. 受理と実現可能性を分けて判定する工程。 同論文によれば、受理の条件は4つ——公益にかなうこと、市の権限に属すること、パリの住民(個人または集まり)が出したものであること、投資の支出であること。そのうえで技術部局が実現可能性を評価して予算を提案し、最後に区長または代理が議長を務め、議員・調査した部局・市民の代表が出る会議が、投票にかける最終の一覧を決める。投票の結果は12月のパリ市議会で承認される
4. 似た提案を束ねる工程を持つこと。 同論文によれば、この段階で市の職員と政治の側が、提案者の同意なしに事業を統合することも、提案者を集めて1つに作り直すこともできる。2019年の事例票は、場所や主題ごとに提案をまとめる3月の作業をこの仕組みの独自性とし、その年に125回の共同構築の作業場が開かれ、投票にかかった430件が出された781件をまとめたもの(提出された10件のうち4件にあたる)だったと書いている
5. 対面と電子の両方を残すこと。 Localtis 2015年12月1日は、電子は必要だが十分ではないというのが3市に共通する見方であり、ウェブは対面の会合ほどの議論の質を得られないと書いている。同記事によれば、パリでは紙と電子が投票として同じ重みを持ち、紙の投票が6日早く締め切られた時点では投票者の45%が紙だったが、最終的には投じられた票の62%が電子だった。2019年の事例票は、200を超える投票所と150を超える公開の会合を挙げている
6. 弱い地区に別枠を置くこと。 Arhip-Paterson の論文によれば、「庶民地区」に3,000万ユーロの別枠があり、この枠が尽きるまでは、票が少なくてもこれらの事業が他より優先される。2019年の事例票では、当選196件のうち67件がこの枠だった
確認できないもの — 運営そのものにかかる費用(広報・システム・投票所)、当選した事業のうち実際に完成した割合、投票した人の属性、そして2020年以降にこの仕組みがどう運用されているかは、参照した4本のどこにも書かれていない。
今どうなっているか
2026年8月時点で確認できた最も新しい記録は、2021年3月4日に公開された W. Arhip-Paterson の論文である。扱われているのは2014年から2020年までの任期であり、その後を書いた出典は無い。 本記録の status_current を「判定不能」にしているのはこのためである。
任期を通した数字は同論文にある。 同論文によれば、2014年から2019年まで毎年1回行なわれ、この過程で選ばれた事業は累計986件、投票者は2014年の4万人から2019年の14万人へ毎年増えた。同論文は、選ばれた事業をパリ市議会がこの任期に1件も拒まなかったとも書いている。区の側では、野党の区長も含めてすべての区長が区の参加型予算を作った。
市の執行部はこれを任期の成果の一つと位置づけた、と同論文は書いている。 同論文によれば、イダルゴは2020年の市町村選挙でも参加型予算を掲げ、投資予算に占める割合を25%に引き上げると提案した。これは提案であって、実行されたと書いた出典は無い。
批判は最初の記事から書かれている。 Localtis は2014年9月15日に、初年度に並んだ15の事業が文化・環境・スポーツ・余暇・都市整備にわたる一方、住宅や福祉といった重い主題には触れていないと指摘し、心地よくはあっても首都と住民の将来の骨格をなすものではないと書いている。同記事は、参加型予算に向けられる批判として、事業の性質、決定の過程で市民の声が実際にどれだけ重いか、結局どういう層が発言するのかの3つを挙げている。Arhip-Paterson の論文も、パリの仕組みは熟議が弱く、個人の意見を足し合わせる論理に近いと書き、その目的は市民に力を与えたり対抗する力を育てたりすることではなく、公衆に受け入れられる合理的な決定を作る「良い統治」の論理に属すると述べている。
投票者数は出典で割れている。 2019年について、市の提供にもとづく事例票は231,822人としているが、Arhip-Paterson の論文は約14万人としており、市の年次発表には別の2つの仕組み(小中学校の枠と社会住宅の枠)の投票者が合算されていると同論文は注記している(discrepancies に並置した)。
出典
- La ville de Paris lance son premier budget participatif — Localtis(Banque des Territoires)(2014-09-15)
- Budgets participatifs : de nouvelles pistes pour renforcer la gouvernance citoyenne dans les villes ? — Localtis(Banque des Territoires)(2015-12-01)
- Les budgets participatifs sont encore partisans. (Dé-)partisanisation des budgets participatifs parisiens (2014-2020) — Participations(Cairn.info)(2021-03-04)
- La Mairie de Paris débloque 100 millions d’euros par an pour son budget participatif — Localtis(Banque des Territoires)・Expériences Smart City(2019-11-12)
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