南オセチア国境の村で、教会が無料の美術学校とアニメーション映画祭を10年以上続けている
Nikozi Art School
OC Media(2025年10月)は、美術学校とアニメーション映画祭が南オセチア国境沿いの他集落に起きた住民流出をニコジ村が免れる助けになったとする関係者の見方を伝えている。
何をしたか
ジョージアの、南オセチアとの境界に近い村ニコジ(ゼモ・ニコジ)で、ニコジ・ツヒンヴァリ主教区の主教イサイア(俗名ズラブ・チャンチュリア)が無料の美術学校を開き、あわせて国際アニメーション映画祭を続けている。Georgia Today(2015年9月1日)が伝えた主教自身の挨拶によれば、主教は修道院に小さなアニメーションスタジオを組織したが、2008年の戦争で他の建物とともに破壊された。その後スタジオを再建し、村で国際アニメーション映画祭を開くという発想に至り、2011年に第1回を開いて「国際アニメーション映画祭『ニコジ』」と名づけたという。Emerging Europe(2021年9月26日)によれば、美術学校は2009年に外国からの資金援助を受けて再開され、美術・音楽・振付・アニメーション・演劇・外国語に加えロッククライミングまで、放課後に無料で通える講座を提供している。OC Media(2025年10月9日)が伝えた2025年9月の映画祭は、主教区の司教館を会場に、この日はジョージア・アニメーション協会(SAQANIMA)の国内作品プログラムに充てられていたという。
誰が始めたか
Emerging Europe(2021年9月26日)によれば、主教イサイアは1980年代末にアニメーションスタジオで働き、トビリシのショタ・ルスタベリ演劇映画大学でアニメーションを学んで1993年に卒業したが、独立直後のジョージアの不安定な経済と内戦のため別の道に進むことになった。一時アブハジアの修道院に入ったのち、1994年に修道士となり、のちにニコジ・ツヒンヴァリ主教区の主教となった。同記事は、2004年に絵画・読書・アニメーションの教育プログラムを村で始めたが、2008年の戦争でアニメーションスタジオが破壊され、2009年に外国からの資金援助で美術学校を再開したと書いている。Georgia Today(2015年9月1日)に載った主教自身の挨拶(同紙ではEsaiahと表記)は、アニメーション作家として7年間の人生を捧げたのちいったん別の道に進んだが、ニコジに赴任してからアニメーションに戻ったと振り返り、修道院に小さなスタジオを組織したこと、それが2008年の戦争で破壊されたこと、のちにスタジオを再建し、2011年に第1回映画祭を開いたことを語っている。同記事は、美術学校の子どもたちが作ったアニメA Little Trampが2015年の映画祭を開幕したこと、上映作品の一本は映画作家マリアム・カンデラゼが主教イサイアと共作したものだったことも伝えている。Emerging Europe(2021年9月26日)は、この施設の主な目的が、戦争のつらい経験に社会が向き合う助けとなり、村が人口を維持し地域の社会文化的な拠点になる助けとなることだったと書いている。同記事はまた、美術学校の卒業生で映画祭運営に携わるエテル・グルジゼの言葉として、学校は教育施設として機能する一方で、社会文化的な空間をつくることでこの地域からの移住を減らす助けになってきたと伝えている。OC Media(2025年10月9日)は、ジョージア・アニメーション協会(SAQANIMA)の創設者で映画作家のマリアム・カンデラゼ(2015年の映画祭で主教イサイアと共作した人物と同一)の言葉として、映画祭の場所が南オセチアに近いのは偶然ではなく、教会のそばに外国の支援を受けて設けられた子ども向けの美術学校とあわせ、南オセチア周辺の他の集落に起きたような住民流出をニコジが免れる助けになってきたと伝えている。
いくらかかったか
4本の出典のいずれにも、美術学校や映画祭にかかった具体的な金額は書かれていない。Emerging Europe(2021年9月26日)は、2009年の美術学校の再開が「外国からの資金援助(foreign financial aid)」を受けたこと、学校と映画祭が外国の助成者や著名な国際映画祭との協力を通じて成果を上げてきたことを書いているが、いずれも金額は示していない。OC Media(2025年10月9日)の記事には、トビリシ市庁舎・EU・NGOからの資金提供に触れた箇所があるが、これは記事後半に出てくる別のスタジオ(トビリシの人形アニメーションスタジオ Fantasmagoria)についての記述であり、ニコジの学校や映画祭の資金源ではない。校舎の建設・改修にかかった費用についても、4本のどこにも記載がない。
真似するなら最低何が必要か
- アニメーションの経験を持つ地元の担い手。 主教イサイア自身が1980年代末にアニメーションスタジオで働き、大学でアニメーションを学んだ経歴を持つ(Emerging Europe、2021年9月26日)。
- 放課後に無料で通える複数の講座。 Emerging Europe(2021年9月26日)は、美術・音楽・振付・アニメーション・演劇・語学・ロッククライミングまで、幅広い無料講座を挙げている。
- 外国からの資金援助。 2009年の美術学校の再開は外国からの資金援助を受けたとEmerging Europe(2021年9月26日)は書いている。金額は出典に無い。
- 地域を越えて人を呼び込む定例の行事。 Georgia Today(2015年9月1日)・Emerging Europe(2021年9月26日)・在ジョージア日本国大使館(2022年9月6日)・OC Media(2025年10月9日)はいずれも、毎年9月に開かれる国際アニメーション映画祭の存在を伝えており、2011年の第1回から10年以上にわたり続いている。
- 人口維持を明確な目的に据えること。 Emerging Europe(2021年9月26日)は、施設の主な目的が村の人口維持と地域からの移住の減少だったという学校卒業生の証言を伝えている。
今どうなっているか
OC Media(2025年10月9日)によれば、2025年9月の国際アニメーション映画祭はなお主教区の司教館を会場に開かれ、主教イサイア自身が主催者として来場者に挨拶した。同記事は、映画作家マリアム・カンデラゼの言葉として、映画祭と美術学校が南オセチア周辺の他の集落に起きたような住民流出をニコジが免れる助けになってきたと伝えている。在ジョージア日本国大使館(2022年9月6日)によれば、2022年9月6日に開かれた第10回映画祭では、日・ジョージア外交関係開設30周年を記念し、国際交流基金の支援で日本のアニメ映画『この世界の片隅に』が上映された。2025年10月より後に、映画祭や美術学校の存続を報じた出典は無く、村の人口そのものの増減を数値で報じた出典も4本のいずれにも無い。 4本の出典が伝えるのは一貫して、学校と映画祭が人口の維持・移住の減少・住民流出の回避に役立ってきたという関係者の見方であり、status_current を継続中としているのは、2015年・2021年・2022年・2025年と4つの異なる年にわたって映画祭の開催が独立して報じられていることによる。
出典
- Georgia's Borderline Village Nikozi to Host Animation Film Festival — Georgia Today(2015-09-01)
- How a bishop, an art school and an animation festival brought hope to a war-torn Georgian village — Emerging Europe(2021-09-26)
- ニコジ国際アニメーション映画祭における『この世界の片隅に』の上映 — 在ジョージア日本国大使館(2022-09-06)
- Dancing fabrics and contested poetry: inside Georgia's resilient animation scene — OC Media(2025-10-09)
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