地震で放棄された歴史的建物を占拠し、利用者の公開総会が使い方を自分たちで決める仕組みに変えた
Ex Asilo Filangieri
2021年の学術誌論文は開設から約10年後に住民110人へ調査を行い、2022年には運営側が10年間の累計来場者32万6064人と発表した。
何をしたか
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ナポリ旧市街サン・ロレンツォ地区の歴史的建物「アズィーロ・フィランジェーリ」は、1980年の地震以来放棄されていたが、2012年3月、劇場・音楽など文化・芸能分野の労働者の集団「ラ・バレーナ」がこれを占拠した。占拠した利用者たちは3年をかけて「都市的市民的共同利用の規則」を自分たちでまとめ、2015年12月にナポリ市がこれを公式の管理規約として認めた。建物の所有権は市に残ったままだが、使い方を決める場は誰でも参加できる公開の総会であり、行政は光熱費や維持管理費の一部負担と施設の監視にとどまる。2016年には同じ仕組みが市内の他の公共施設にも広げられた。
誰が始めたか
2012年3月2日、劇場・音楽・美術など芸術・芸能分野の労働者の集団「ラ・バレーナ」が、1980年の地震以来放棄されていたアズィーロ・フィランジェーリの建物を占拠したとArtribune(2016年1月10日)は書いている。同記事によれば、占拠は「不安定な労働者(lavoratori dell'immateriale)」と呼ばれる芸術・興行分野の労働者の空間と権利の不足を訴えるものだった。Rockit(2021年6月1日)によれば、この建物はもともと「文化フォーラム(Forum delle Culture)」の会場に充てられる計画があったが催し自体は実現しないままで、占拠はその改修と再放棄への抗議として行われたという。
Labsus(2016年3月7日)によれば、占拠から3年間、利用する当事者たちは公開の作業部会(tavoli pubblici)を重ね、研究者・法律家の助力を得て「都市的市民的共同利用に関する規則」を自分たちでまとめた。この規則が建物の公式な管理規約として採用されたのは、決議893/2015によってであるとLabsusとCooperative Cityは書いている。Artribuneによれば、ナポリ市はこの決議に署名した2015年12月29日、既存の公共財利用規則に基づいてアズィーロの空間を「文化の生産・普及の場」として認めた。Fanpage.itによれば、市の文化・財産・参加民主主義の3分野を担当する評議員がこの決議に署名し、市は占拠者たちが自ら生み出した「自己規律の仕組み」を追認したと説明している。
この決定には批判もあった。前市長選でデ・マジストリス氏に敗れた実業家ジャンニ・レッティエリ氏は、Facebook上でこの決議を「市政史上もっとも情けないページ、違法行為の勝利」と評したとArtribuneは伝えている。同記事によれば、家賃を払って活動する他の文化団体との公平性を問う批判だった。これに対し同記事は、建物の所有権はナポリ市に残ったままであり、決議は既存の公共財利用規則に基づく「市民的利用の宣言」であって第三者への譲渡ではないという市側の説明を併せて伝えている。
規則が定める運営組織は複数の階層に分かれる。Fanpage.itと学術誌『Impresa Sociale』掲載の論文(Vittoria・Mazzarella、2021年3月15日)によれば、誰でも参加できる「運営総会(Assemblea di Gestione)」、3か月以内に運営総会4回と方針総会1回への出席を経た者だけが加われる「方針総会(Assemblea di Indirizzo)」、参加民主主義に見識のある人物ら7人(うち1人はナポリ市の代表)からなる「保証人委員会(Comitato dei Garanti)」の三層である。最終的な意思決定機関は総会であり、市はこの意思決定そのものには加わらないと同論文は書いている。
いくらかかったか
事業全体の総費用を示す出典は見つからなかった。学術誌『Impresa Sociale』の論文(Vittoria・Mazzarella、2021年)によれば、2015年の決議893号は「管理費用の補填」を認めており、実際にはナポリ市が光熱費とWi-Fi料金、清掃費、経常・臨時の維持管理費、開閉業務にあたる市職員の人件費という形で毎年公費を投じているという。一方、上演や展示など活動そのものの資金は、来場者からの任意の拠出やクラウドファンディング・寄付・物々交換に限られ、収入は資材や設備への再投資に回されるという構造だと学術誌『Impresa Sociale』の論文は説明している。Rockit(2021年6月1日)によれば、運営に関わる「住人(abitanti)」の誰も報酬を得ておらず、初期の資金源は主にコンサートの収益だったという。
真似するなら最低何が必要か
出典からは、次の要素が確認できる。第一に、空いた公共建物の使い方を、利用者自身が言葉にした規約に落とし込むこと。占拠から3年、公開の作業部会を重ね、研究者・法律家の助けも借りながら規則を文書化した(Labsus)。第二に、誰でも入れる意思決定の場を1つに絞ること。運営総会を唯一の意思決定機関とし、参加を積み重ねた者だけが方針を扱う総会に進める段階制にした(Fanpage.it、Impresa Sociale論文)。第三に、単一の団体が場所を専有できないよう明文化すること。どの主体も恒久的な拠点として割り当てられず、利用は輪番制と定められている(Impresa Sociale論文)。第四に、行政の関与を「管理」ではなく「費用の一部負担と監視」に限る形で交渉すること。ナポリ市は光熱費・清掃・維持管理費と開閉要員の負担にとどまる(同上)。第五に、紛争や参加資格を裁く第三者的な仕組みを置くこと。7人からなる保証人委員会が最終判断を担い、うち1人は市の代表が加わる(同上)。第六に、出発点が占拠であることへの批判は避けられないと見込んでおくこと。実業家からは「違法行為の勝利」という評が出ている(Artribune)。
今どうなっているか
2026年9月時点で確認できた最新の記録は、開設10周年を伝える2022年3月4日のIl Roma(運営側の発表=comunicato stampaを基にしたと同記事は明記している)である。それによれば、2012年3月の占拠開始からパンデミック開始までの累計で、アーティスト・活動家・研究者・住人(アビタンティ)・利用者ら32万6064人を受け入れたと運営側は発表している。これとは別の集計として、学術誌『Impresa Sociale』掲載の論文は2012年度から2015年度までの4年間累計の「来場者(fruitori)」を20万6159人とし、Cooperative City(2021年8月31日)は「最初の5年間の受益者」を26万人としている。区切る期間も集計の出所もそれぞれ異なるため、1つの数字には丸めない。
Cooperative City(2021年8月31日)によれば、2020年春の新型コロナウイルス流行の初期、ナポリ市はアズィーロを含むこの仕組みで運営される施設群を頼りに、住まいを失った人々への避難所提供や市内各所への食料配布を行った。2016年の決議446号(学術誌『Impresa Sociale』の文献リストによれば6月1日付)により、同じ仕組みは市内の他の公共施設にも広げられたと同記事は書いている。
ただし、学術的な検証は手放しの評価をしていない。2020年に実施された住民110人への調査(Vittoria・Mazzarella、2021年)では、アズィーロの存在を知っていた60人のうち、運営や方針を決める総会への参加頻度を尋ねたところ「よくある」と答えたのはわずか4人で、「一度もない」は46人にのぼった。論文は、この事業がエリノア・オストロムの言う「コモンズ」の設計原則を十分には満たしておらず、実態は「自ら手を挙げた社会的主体への管理委託」に近いと評価する一方、放棄されかねなかった歴史的建物を市民参加の場に転換した点は評価できるとしている。この学術的な指摘に対する運営側からの直接の反論は、今回参照した出典の範囲では確認できなかった。
出典
- L'Ex Asilo Filangieri? Un luogo di produzione e diffusione di cultura. Il Comune di Napoli “stabilizza” gli occupanti: ma non mancano le polemiche — Artribune(2016-01-10)
- L'ex-Asilo Filangieri ed il governo dei beni comuni — Labsus (Laboratorio per la sussidiarietà)(2016-03-07)
- De Magistris 'benedice' l'ex Asilo Filangieri: brindisi e delibera per regolarizzarlo — Fanpage.it(2016-01-02)
- Storia dell'Asilo: la cultura che resiste a Napoli — Rockit.it(2021-06-01)
- 10 anni per l'Ex Asilo Filangieri di Napoli — Il Roma(2022-03-04)
- La recente esperienza napoletana sui beni comuni, tra governance istituzionale e output sociali. Il caso dell'Ex Asilo Filangieri — Impresa Sociale(査読誌)(2021-03-15)
- The promotion of the commons in Naples: from self-organisation to co-governance — Cooperative City (Eutropian)(2021-08-31)
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