線路跡地に家賃を抑えた個人商店の街を連ねた
下北線路街
開始から3年以上あとの出典は2024年5月の公共R不動産の取材記事1本のみで、運営会社が仕組みを説明する内容にとどまる。
何をしたか
東京都世田谷区、小田急線の地下化で空いた東北沢〜世田谷代田間の線路跡地(約1.7km)に、小田急電鉄が個人経営の店舗を集めた商業施設を順次開業させた。2020年に店舗兼住宅型の「BONUS TRACK」、2021年に24区画の個店街「reload」が開業し、2022年に全13施設が出そろった。BONUS TRACKは家賃を相場より抑えており、運営する株式会社散歩社が20年の定期借地でマスターリースしている。
誰が始めたか
主体は小田急電鉄で、方針が変わったのは2017年である。 greenz.jp(2020年9月2日)によれば、小田急電鉄でBONUS TRACKの計画を担当した向井隆昭氏は、2015〜2016年頃から住宅地の代田と商業地の下北沢をつなぐコミュニティ的な場所を構想していたが実現できずにいたところ、2017年に上司が交代したことをきっかけに構想が具体化したと述べている。同氏によれば、当時の不動産開発部門はハード先行で、BONUS TRACKの区画は駐車場にする計画も持ち上がっていたという。
BONUS TRACKでは、開発を担った部署がそのまま運営にも関わる、社内では前例のない体制を敷いた。 greenz.jpで小田急電鉄の向井隆昭氏(BONUS TRACKの開発担当)は、通常であれば開発後に管理部門へ引き渡すところを、BONUS TRACKでは開発部門自身が実績をつくってから引き渡す実験的な仕組みにしたと述べている。他の12施設にも同じ体制が採られたかは、参照した出典からは確認できない。
テナントの選定は不動産の専門家ではない外部の2人に委ねられた。 greenz.jp運営元グリーンズのビジネスアドバイザーだった小野裕之氏と、下北沢の書店「B&B」を経営する内沼晋太郎氏が、株式会社散歩社を設立してBONUS TRACKの企画・運営(マスターリース)を担った。公共R不動産(2024年5月15日)掲載のプロフィールによれば、小野氏は2020年春に散歩社を創業し、BONUS TRACKを開業した。
着工前には住民の反対運動や訴訟もあった。 公共R不動産の取材で小野氏は、声をかけられた当時、更地にはなっていたが再開発をめぐる反対運動と住民訴訟がまだ収まらず、開発が止まった状態だったと振り返っている。財界オンライン(2022年6月7日)によれば、小田急の担当者は反対派を含めて住民と200回以上話し合いを重ね、その結果として13施設が生まれたとしている。
いくらかかったか
下北線路街13施設全体の総事業費は約90億円と財界オンライン(2022年6月7日)は報じている。これは1.7kmにわたる13施設の合計であり、BONUS TRACKやreloadなど個別施設の事業費は確認できなかった。
分かるのは賃料と契約の形である。 公共R不動産の取材(2024年5月15日)で小野氏は、BONUS TRACKについて「家賃も相場より3割くらい抑えられている」と述べ、散歩社がこの場所を定期借地20年でマスターリースして運営していると説明している。あわせて同氏は、この場所は第一種低層住居専用地域で商業のみの施設はつくれないこともあって、木造の店舗兼住宅を中心に構成されていると説明している。同氏はこの構成が費用を抑えたとは述べていない。
真似するなら最低何が必要か
1. 通常の採算では厳しい土地であること。 公共R不動産の取材で小野氏は、声がかかった当時の区画について、線路跡地であるため高層化ができず不動産としての収益性は高くない案件だったと述べ、駐車場にする案もあったとしている。収益性の低さが、通常の商業開発とは違う手法を試す余地を生んだ
2. 開発部門が運営まで引き受ける社内体制。 greenz.jpで向井氏が述べたとおり、BONUS TRACKでは通常は開発後に管理部門へ引き渡すところを、開発部門自身が実績をつくるまで運営に関わり続ける体制にした。他の12施設に同じ体制が採られたかは出典から確認できない
3. 不動産の専門家ではない外部の担い手にテナント選定を委ねること。 BONUS TRACKでは、ウェブメディア運営者とおにぎり店・書店の経営者が、貸主でありながら自らもテナントとして入る形で運営を始めている(greenz.jp)
4. 家賃を市場より抑えた、長期の定期借地契約。 公共R不動産の取材によれば、BONUS TRACKは相場より3割程度低い家賃で、20年の定期借地によるマスターリースとしている
5. 住民との対話を、開業前に重ねること。 財界オンライン(2022年6月7日)によれば、反対派を含めて200回以上の話し合いを行い、住民から出た「緑を増やしてほしい」という要望を受けて広場や植栽を増やし、その維持管理には地元住民のボランティアが加わったという
6. 収入源を複数持ち、企画そのものを大切にすること。 公共R不動産(2024年5月15日)の取材で小野氏は、散歩社の収入はイベント事業とマスターリースがほぼ半々で、スタッフは正社員2人・業務委託7〜8人ほど(大半はイベント企画者)だと述べ、場所貸しだけでなく企画を重視していると語っている
確認できないものは、施設ごとの整備費、テナント個別の賃料水準、200回の対話の具体的な開催期間である。
今どうなっているか
2024年5月時点で確認できた最新の記録は、公共R不動産による散歩社・小野裕之氏へのインタビューである。 同氏はBONUS TRACKについて、家賃相場より3割程度抑えた条件で20年の定期借地としてマスターリース運営していると説明している。同記事の筆者は、2月中旬の取材時、広場に、散歩途中に立ち寄ったのであろう近隣の人々や、近隣に勤める人が集まっていた様子を、記者自身の見聞として描写している(誰がなぜそこにいたのかは、筆者も推量の形で書いている)。
2022年に全面開業してからの状況は、この1本以外に確認できていない。 財界オンライン(2022年6月7日)は全面開業時点の情報として、4月の下北沢駅の輸送人員が前年比17%増で、「全体平均」の11%増を上回ったと報じている(何の全体かは同記事に明記されていない)が、これは開業直後の数値であり、その後の推移を報じた出典は見つからなかった。
否定的な報道は、今回探した範囲では見つからなかった。
出典
- 複雑なものを複雑なまま届けることで、まちの人の関わりしろをつくる。「BONUS TRACK」が下北沢で実験する新しい商業施設のカタチとは。 — greenz.jp(2020-09-02)
- 下北沢開発、全24棟からなる商業空間「reload」 — Impress Watch(2021-05-17)
- 【住民との対話は200回以上】小田急の「下北線路街」が全面開業 — 財界オンライン(2022-06-07)
- メディアのように空間を編集する。下北沢 BONUS TRACKのメカニズム「散歩社」小野裕之さんインタビュー(前編) — 公共R不動産(2024-05-15)
この記述は間違っていますか。受け取ってから2週間以内に、直すか直さないかを返します。