現金が乏しいスラム街で住民が紙の代用通貨を刷り、のちにブロックチェーンでデジタル化した
Bangla-Pesa
2013年11月に紙の代用通貨として再開し、2018年8月にブロックチェーン上のデジタル・トークンとして刷新されたとDecryptが報じている。それ以降の続報は確認できていない。
何をしたか
2013年5月、ケニア第2の都市モンバサ郊外の貧困地区「バングラデシュ」で、住民たちがケニア・シリングに代わる紙の代用通貨「バンガラ・ペサ」を刷り、地区内の商店どうしの取引に使い始めた。米国人経済学者ウィル・ラディック氏が地元の商人たちと企画し、100人以上の商店主が使い始めた(The World、PRX、2013年11月13日)。Brookings(2013年7月17日)によれば、参加者は「バンガラ・ビジネス・ネットワーク」に登録し、均等な枚数のバンガラ・ペサが配られた。開始から3週間ほどで警察に偽造通貨とみなされて関係者が逮捕されたが、起訴は退けられ、同年11月に流通を再開する計画だとされた。2018年8月には、非営利団体Grassroots Economicsがブロックチェーン上のデジタル・トークンとしてこの仕組みを刷新した(Decrypt、2018年8月29日)。
誰が始めたか
始めたのは、モンバサに住んでいた米国人経済学者ウィル・ラディック氏である。 The World(PRX、2013年11月13日)によれば、氏は地元の商人たちと「現金が無ければ、売るものがあっても交換できない」というジレンマを解消する方法を検討し始めた。同記事は、トマトやキャベツを売るエマ・オニャンゴ氏ら地元の商人が加わり、100人以上の商店主がバンガラ・ペサを商品・サービスの交換に使い始めたと書いている。Brookings(2013年7月17日)によれば、参加者は「バンガラ・ビジネス・ネットワーク」に登録し、均等な枚数が配られた。The World(PRX、2013年11月13日)によれば、名前は地区の名前「バングラデシュ」と、スワヒリ語で「お金」を意味する「ペサ」を組み合わせたものだという。
仕組みを作ったのは、対等な会員どうしの相互信用である。 Brookings(2013年7月17日、ムワンギ・キメニイ氏とデイビッド・ムタカ氏)によれば、バンガラ・ビジネス・ネットワークに加わった会員には等しい枚数のバンガラ・ペサが配られ、全会員がこれを交換の手段として受け入れることに同意する。現金を払わずに商品・サービスを受け取れる点で信用取引だが、二者間の貸し借りではなく、ネットワーク全体を相手にした多角的な決済である点が特徴だと同記事は説明している。
2018年にこれをデジタル化したのは非営利団体Grassroots Economicsである。 Decrypt(2018年8月29日)によれば、2018年の時点でラディック氏は同団体の創設者であり、暗号資産関連の非営利団体Bancorの「Director of Community Currencies」も務めていた。デジタル・トークン化には、イーサリアム基盤のBancor Protocolが使われたと同記事は書いている。
いくらかかったか
運営そのものにいくらかかったかを示す数字は、参照した5本のどこにも無い。
The World(PRX、2013年11月13日)によれば、2013年の逮捕のあと、地域はホログラムとセキュリティ・シールつきの新しい紙の代用通貨を刷り直す費用を自ら負担しなければならなかった。ただし具体額は書かれていない。
規模を示す数字はいくつか出ている。 Brookings(2013年7月17日)が引く調査によれば、参加した商人の83%が売上の増加を報告し、0.05%のみが減少を報告した。バンガラ・ペサ経由の1日あたりの平均売上は、基準時点の総売上の22%にあたるといい、シリング建ての売上は基準時点から変わっていなかったという。この「22%」は、The World(PRX、2013年11月13日)がラディック氏の発言として伝える「最初の1週間で取引が22%増えた」という数字とは、時点も算出のもとになった調査も異なる。
Decrypt(2018年8月29日)によれば、2018年8月7日に始まった試験段階では、店主・魚売り・教師などのグループに1人あたり500個のデジタル・トークンが配られ、すでに紙の代用通貨を使っている250の地元事業者で使えるようにした。近い目標として、トークンを持つスマートフォン所有者を1,000人以上に増やすことを掲げているとも同記事は書いている。
真似するなら最低何が必要か
1. 使える範囲を地区の中に限る。 Brookings(2013年7月17日)によれば、バンガラ・ペサはこのスラム街の中でしか使えないという意味でその名がついており、政府発行の通貨と並行して流通する。The World(PRX、2013年11月13日)によれば、外に持ち出せない設計が、現金を地区の外の用途(バス代・学費など)に温存させる
2. 会員制のネットワークを作り、均等に配る。 Brookings(2013年7月17日)によれば、バンガラ・ビジネス・ネットワークに登録した商店に等しい枚数を配り、全員がそれを交換手段として受け入れることに同意する。特定の相手との貸し借りではなく、ネットワーク全体を相手にした決済にする
3. 貯め込めない設計にして、使うほど地域に残るお金にする。 Decrypt(2018年8月29日)によれば、デジタル版のトークンは利息が付かないため、価値を保つには地元で使い続けるほかない。これが地区内での取引を絶えず回す仕組みになっているという
4. 疑いを招く前に、公的な説明の場を作る。 The World(PRX、2013年11月13日)によれば、地元紙の記事がバンガラ・ペサを分離主義運動と結び付けたことが、警察の介入につながった。ラディック氏は起訴後、夏のあいだ一般向けの説明活動に費やし、オランダ・ハーグで開かれた国際会議では支持を求める署名に600人以上が応じたという
5. スマートフォンが無い人にも届く手段を用意する。 Decrypt(2018年8月29日)によれば、デジタル化の際、ケニアで広く使われる携帯送金アプリ「M-Pesa」の利用者が多いことを踏まえ、スマートフォンを持たない住民向けにテキストメッセージでの取引サービスを近く始める計画だとされていた
6. 再開のときは地元の行政を巻き込む。 The World(PRX、2013年11月13日)によれば、2013年11月の再開にあたっては、最初の立ち上げとは異なり、地元政府がその祝いの場に招かれる予定だとラディック氏は述べている
今どうなっているか
2026年9月時点で確認できた最も新しい記録は、2018年8月29日のDecryptである。 同記事によれば、デジタル・トークン化の試験は順調に進んでおり、住民はトマトやチャパティ、学費、散髪、木炭、建設作業、ゴミ収集の支払いにこのトークンを使っていた。地域住民で、同記事の表記では「バングラデシュ・ビジネス・ネットワーク」の役員でもあるエマ・オニャンゴ氏は、以前は朝になると水路で遺体が見つかるほど治安が悪かったが、この仕組みができてからは夜も出歩けるようになったと同記事で述べている。
同記事は、Grassroots Economicsがコンゴ、ナイジェリア、南アフリカなど他の地域でも同様の地域通貨の取り組みを広げつつあるとも書いている。
2018年より後に、バンガラ・ペサそのものを名指しして取り上げた記録は、参照した5本のどこにも無い。 この仕組みが今も動いているかどうかを確認できる出典は見つかっておらず、判定不能とした。
出典
- An African slum lacked cash, so people made their own - The World from PRX — The World (PRX)(2013-11-13)
- Bangla-Pesa: Slum Currency and Implications for the Poor in Developing Countries | Brookings — Brookings(2013-07-17)
- A Mombasa slum looks to digital currency to escape poverty - Decrypt — Decrypt(2018-08-29)
- Mombasa in spotlight over 'currency that improves lives' Bangla-pesa - The Standard — The Standard(2013-06-02)
- Bangla-Pesa makes huge comeback after court battle - The Standard — The Standard(2014-02-09)
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