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クルミの苗木1本ごとにデジタルトークンを発行し、世界中からの共同出資で農園を育てる仕組みを作った

The Walnut Fund

セルビア / ヴォイヴォディナ自治州スレム郡(モロヴィン)と中央セルビア・ポモラヴリェ郡(レコバツ)の2農園 / レコバツ市ロムニツァ村(初のトークン発行対象)およびシド市モロヴィン村。運営会社の本社はノヴィ・サド市

クルミの苗木1本ごとにデジタルトークンを発行し、世界中からの共同出資で農園を育てる仕組みを作った
© AGRO VESTI(写真クレジット BizLife) — この写真が載っている記事

2024年8月にレコバツ農園向けの初回トークンが承認され、2025年1月にはパノニア農園での第2次植樹が進んでいるとNetokracijaは伝えている。

何をしたか

セルビアの新興企業The Walnut Fundは、クルミの苗木1本ごとに所有権を表すデジタルトークンを発行し、世界中の個人から出資を集めて農園を育てる仕組みを作った。Forbes Srbija(2023年12月2日)によれば、新型コロナウイルスの感染拡大期に着想を得て事業を始めたのち、いったん資金を出資者に返還して停止し、2021年末に再稼働。2022年には出資者が5,000本以上の苗木に投資し、シド近郊のモロヴィンとレコバツ近郊のロムニツァに農園(各23ヘクタール)を作った。2024年8月、証券委員会の承認を得てレコバツ農園分の樹木をブロックチェーン上のトークンとして発行し、10営業日で半数以上を売った(Forbes Srbija、2024年8月16日)。

誰が始めたか

Forbes Srbija(2023年12月2日)によれば、事業のきっかけは、友人がカチャレヴォ近郊にクルミの苗木を植えるのを手伝ったグループの体験だった。報酬を受け取るつもりはなかったため、冗談交じりに木の一部は自分たちのものだと話していたところから、他の人にも同じ機会を提供する事業モデルの着想を得たという。agronews.rs(2024年8月17日)は、これより早い時点の経緯として、創業者の一人が2016年に自宅の庭にクルミを植える計画を立て、友人らを誘って手伝ってもらったという話を伝えている。「大変な作業で、友人に報酬を請求するのも気が引けたので、木で払ってもらうことにした」とMilan Žikić氏は同記事で振り返っている。

Žikić氏はこの体験をもとに5人のチームを組み、新型コロナウイルスの感染拡大期にWalnut Fundを立ち上げた。Forbes Srbija(2023年12月2日)によれば、チームのうち農学の専門家は1人だけで、残りはIT・エンジニアリング・マーケティングの出身だという。同記事は、Žikić氏の発言として、視点の異なるメンバーで構成されたチームこそがスタートアップの成功の鍵だと伝えている。同記事の写真キャプションにはLazar Milošević氏をエグゼクティブディレクター(最高執行責任者相当)とする付記があるとされる(discrepancies参照)。一方、Netokracija(2025年1月17日)はMilan Žikić氏自身をCEO兼共同創業者として紹介しており、両記事の間で肩書きの記述が食い違う(discrepancies参照)。

事業資金についてForbes Srbija(2023年12月2日)は、Žikić氏が自己資金のみに頼ったと述べ、スタートアップ支援プログラムにも応募したが採択されなかったと伝えている。

いくらかかったか

Netokracija(2025年1月17日)によれば、出資者は苗木1本あたり最低200ユーロから、最大10万ユーロまで投資できる。Forbes Srbija(2023年12月2日)は、出資額から灌漑設備・機械・現地作業員の人件費・収穫後の加工と販売までが賄われると伝えている。

2024年8月の初回トークン発行では、証券委員会がレコバツ農園のクルミ1,100本分に対応するThe Walnutトークン(TWE_R)4,400口(額面6,000ディナール、初回募集総額2,640万ディナール)の発行を承認した。Forbes Srbija(2024年8月16日)とagronews.rs(2024年8月17日、ほぼ同一の引用を含むため同一発表に基づくと判断)によれば、7月20日から8月3日の募集期間のうち最初の10営業日で1,854口(利用可能数の半数以上)が売れ、2,546口が残ったという。

出資者への利益分配の仕組みについては出典間で説明が食い違う。Forbes Srbija(2023年12月2日)は、収穫が始まった年から40年間、毎年の収穫販売額の半分を出資者が継続して受け取ると説明する一方、Netokracija(2025年1月17日)は、出資者がまず投資額を回収し、その後に残る利益を50対50で分配すると説明している(discrepancies参照)。個人ブログLične Finansije(2025年6月8日、筆者自身が出資者であることを明示)は、自分が投資してからクルミの実(収穫物)の市場価格が約20%上昇したと伝える一方、同時点で配当の支払いはまだ行われていないと述べている。

真似するなら最低何が必要か

この事例から取り出せるのは、個人の小さな出資を1本単位のデジタル証票に変えて広く集める仕組みづくりである。

1. 最小出資単位を誰でも手が届く額まで下げること。 Netokracija(2025年1月17日)によれば、最低出資額は200ユーロで、苗木1本から始められる。専門知識のない個人でも参加できる単位まで下げたことが、出資者を広げる前提になっている。

2. オンラインで完結する契約と決済の導線を作ること。 Forbes Srbija(2023年12月2日)によれば、出資者は登録・個人情報の入力・オンライン契約への署名・支払い方法の選択(PayPal・暗号資産・銀行振込)という手続きだけで出資が完了する。

3. 規制当局の承認手続きを踏んでからトークンを発行すること。 Forbes Srbija(2024年8月16日)によれば、証券委員会への「ホワイトペーパー」提出・承認というセルビアの資産デジタル化法に基づく手続きに1年を要したという。Žikić氏は同記事で、この手続きが投資家保護のための情報開示の基盤になると説明している。

4. 利益分配の条件を具体的な数字で明示すること。 Forbes Srbija(2023年12月2日)によれば、出資者は収穫開始後、毎年の収穫販売額の半分を受け取る仕組みだという(ただし配分の具体的な起点については出典間に食い違いがあり、discrepanciesを参照)。

5. 専門知識を持つ運営チームが栽培・管理を代行する体制を作ること。 Forbes Srbija(2023年12月2日)によれば、出資者が出資を完了した後は追加の義務を負わず、樹木の管理・農園の維持・収穫後の販売はチーム側が担うという。Netokracija(2025年1月17日)は、チームには農学の専門家に加えIT・ビジネス・経済の専門家がいると伝えている。

6. 既存の出資者に樹木の生育状況を伝え続ける体制を作ること。 個人ブログLične Finansije(2025年6月8日)は、運営チームが投資家に大きな動きを随時知らせており、農園には遠隔で確認できるカメラを設置し、投資家向けの現地見学会も開いていると伝えている(同筆者は自らの出資者としての立場を明示したうえでこの点を評価している)。

今どうなっているか

Forbes Srbija(2024年8月16日)によれば、The Walnut Fundは2つの農園を合わせて約1万2千本のクルミを抱えており、新しい農園の準備を進めているという。2025年1月時点で、Netokracija(2025年1月17日)によれば、「パノニア」と呼ぶ大規模区画で第2次植樹を進めているという。同記事によれば、Žikić氏は今後、加工品の開発や他の生産者との連携、他の農業者が同じ事業モデルで資金調達できるようにする支援にも力を入れる考えを示している。

個人ブログLične Finansije(2025年6月8日、筆者は自らの出資者としての立場を明示)は、証券委員会が新たに白書を承認し、6,800口のトークンのうち1,400口が既に売れ約5,400口が残っていると伝える一方、この筆者は「当面はこれが最後のクルミ向けトークン発行になりそうだ」と述べ、今後はサクランボ・洋梨・ジャガイモなど他の作物に事業を広げる可能性があるとの見方を示している(同筆者自身の推測であり、運営側の公式発表ではないと明記されている)。同記事は、既存の出資者への影響は当初の計画通りに継続するとし、配当の支払いはこの時点でまだ行われていないが、それも当初からの計画通りだと伝えている。

以上の独立した3件の一次報道(Forbes Srbija 2023年12月2日、Forbes Srbija 2024年8月16日、Netokracija 2025年1月17日)は、2021年末の再稼働から3年以上を経た後もそれぞれ異なる時点で取り上げており、農園の拡大とトークン化という事業の進展を伝えている。閉鎖や失敗を報じる記事は出典の中に見当たらなかった。

出典

  1. Digitalno investiranje u poljoprivredu se širi u regionu – ulažete u orahe i svinje, a ne morate ni da ih vidite — Forbes Srbija(執筆はForbes HrvatskaのJelena Andrić、共著Marko Repecki)(2023-12-02)
  2. U Srbiji izdati prvi digitalni tokeni za ulaganje u agrar: Ima li interesovanja za takvo investiranje — Forbes Srbija(2024-08-16)
  3. Srpski startap, The Walnut Fund: Za investiranje u stabla oraha dobijate token koji vam daje pravo na podelu dobiti — AGRO VESTI(agronews.rs。写真クレジットはBizLife。2024年8月16日のForbes Srbija記事とほぼ同じ引用・数値を含み、同じ発表・取材に由来すると判断した)(2024-08-17)
  4. The Walnut Fund: Kako investicija u drvo oraha može doneti pasivne prihode? — Netokracija(記者Marko Crnjanski)(2025-01-17)
  5. The Walnut Fund – Nova plantaža u ponudi — Lične Finansije(個人ブログ。筆者は自らWalnut Fundに出資していると本文で明示している)(2024-12-14)
  6. Kraj za Walnut Fund!? – Nove informacije — Lične Finansije(個人ブログ。筆者は自らWalnut Fundに出資していると本文で明示している)(2025-06-08)

最終確認日 2026-09-04

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