市が「困っている」と認めた世帯が水道・ガスの請求書をサイトに置き、払いたい人が選んで肩代わりする
Askıda Fatura
2021年9月には2020年5月の開始からの累計で払われた請求書が28万件・4,100万トルコリラと報じられ、2024年8月には開設以来およそ1億5,500万トルコリラの寄付が集まったと報じられた。2025年には İmamoğlu らに向けられた容疑の1つの対象にされたと書かれている。
何をしたか
イスタンブール大都市自治体(İBB)が2020年5月に始めた、オンラインの寄付の場である。İBB が困っていると認めた世帯が、İBB の事業体である İSKİ と İGDAŞ の水道・ガスの請求書の情報をサイトに書き込み、払って善いことをしたい市民が置かれた請求書から選んで肩代わりする。開始の日に市長が示した説明では、水とガスで別々の価格帯から選べるとされていた。5月6日に支払いの仕組みが開いたと BirGün は伝えており、その前日の説明で市長は、24時間で困っている8,691世帯が申し込んだと述べていた。のちに家族向け、母子向け、教育、移動などの枠が足された。2021年9月には2020年5月の開始からの累計で払われた請求書が28万件・4,100万トルコリラと報じられ、2024年8月には開設以来およそ1億5,500万トルコリラの寄付が集まったと報じられている。
誰が始めたか
始めたのはイスタンブール大都市自治体(İBB)で、発表したのは市長である。 bianet は2020年5月4日に、Ekrem İmamoğlu が、感染症のために家にいるほかない人や職を失った人と支え合うためにこの仕組みを始めたと述べたと伝えている。同氏は、イスタンブールでは日々の稼ぎで暮らす何百万人が2か月近く働けておらず、家にパンを持ち帰れないとしたうえで、İBB が毎日何万もの世帯に食料の支援・買い物カードの支援・現金の支援を続けていると述べている。
直接の引き金は、請求書の先送りが解決になっていなかったことである。 同氏は同じ発表で、感染症の流行のためにイスタンブールでは3か月のあいだ水道料金の支払いが先送りされたが、3か月後にその請求書は手元の請求書と一緒に払うことになり、積み上がった借金として困っている人を圧迫すると述べている。さらに、ガスについては法律上先送りができなかったとも述べている。
「自分に何ができるか」という問い合わせが下地にある。 Sözcü が2020年5月7日に載せた İmamoğlu の説明の箇条書きには、この時期に多くの市民が支え合いの気持ちで İBB に連絡し、経済的に苦しい市民を支えたいと伝えてきたこと、「私は何ができるか」と問うていたことが挙げられている。同氏はそこで、月々の請求書を払うのに困っている人と、その必要を代わりに満たしたい市民とを引き合わせる、と説明している。
作ったのは情報処理の部署である。 BirGün は2021年9月19日に、この事業を実施したのが İBB Bilgi İşlem Daire Başkanlığı(情報処理局)だと書いている。福祉の部署ではなく、情報の部署が作ったものとして紹介されている。
いくらかかったか
原資は、肩代わりする人が払う請求書の代金である。運営そのものにいくらかかったかは、参照した7本のどこにも書かれていない。
出ている数字は、開始直後から順に次のようになる。 2020年5月6日、BirGün は、支払いの仕組みが開いた時点で17,042世帯の396万3千リラ分の請求書がシステムにあると İmamoğlu が述べたと伝えている。その翌日の5月7日、Sözcü は、İBB 報道担当の Murat Ongun の投稿として、払われた請求書は合わせて41,883件、払われた額は502万7,092リラに上がったと伝えた。2021年9月19日、BirGün は ANKA の記事として、2020年5月の開始からこの時点までに払われた請求書が28万件にあたる4,100万リラに達したとした。2024年8月8日、BirGün は同じく ANKA の記事として、開設以来およそ1億5,500万リラの寄付が集まったとした。
この2つの大きい数字は、数えているものが違う。 4,100万リラは払われた請求書の額(2021年9月19日の ödenen fatura miktarı)、およそ1億5,500万リラは集まった寄付の額(2024年8月8日の bağışın toplandığı)である。時点も違う。この2つが同じ系列の推移だとは、出典のどこにも書かれていない。
枠ごとの額が分かるのは教育支援だけである。 2024年8月8日の記事によれば、2021年から開いている教育支援の枠には4万3千人の寄付者が1,400万リラを超える寄付をし、大学生には一度かぎり750リラが İstanbulkart に振り込まれて本人に SMS で知らされる。
2025年3月26日には、呼びかけのあと短い間に合わせて93万6,947リラの請求書が払われたと BirGün と T24 が書いている。
真似するなら最低何が必要か
1. 対象を、自分が請求している債権に限る。 載るのは İSKİ(水道)と İGDAŞ(ガス)の請求書で、どちらも İBB の事業体である(bianet 2020年5月4日)。自治体は、自分が発行した請求書の中でこの仕組みを回している。 他人の債権を肩代わりさせる形になっていない
2. 誰が「困っている」かを、先に自治体の側で確かめておく。 Sözcü(2020年5月7日)によれば、請求書を置けるのはİBB が社会扶助の申請を認めた人だけである。まだ申請していない人は別の窓口から申請してこの過程を始められるとされ、同記事は İBB が社会扶助の審査をかなり速く終えて対象者を認めていると書いている。認定の仕組みが先にあり、その上に置き場が乗っている
3. 出す側と払う側が、互いを見ない形にする。 同記事は、これを、与える手が受け取る手を見ない支え合いだと説明している。İmamoğlu も2020年5月4日の説明で、載せるのは請求書の情報だけだとしている
4. 払う側に選ぶ幅を用意する。 同じ説明では、払って善いことをしたい市民は、水とガスで別々の価格帯から払う請求書を選べるとされている。金額を指定して寄付するのではなく、置かれた請求書を選ぶ形である
5. 制度の穴を埋める道具として位置づける。 水道料金は3か月先送りできたが、ガスは法律上できなかった。しかも先送りされた分は3か月後に手元の分と合わせて払うことになる。「先送りは解決ではない」という認識が、この仕組みを始める理由として明示されている
6. 枠を後から足せる作りにする。 2021年9月19日の記事は、仕組みが「Aile Destek Paketi」「Anne-Bebek Destek Paketi」「Eğitim Destek Paketi」へ広がったと書き、2024年8月8日の記事は、家族向け、0〜4歳の子を持つ母親向け、移動のための枠があるとしている。2025年3月26日の T24 は、そこにさらに「Ulaşım Destek Paketi」「Yuvam Destek Paketi」「Emekliye Pazar Desteği」が足されたと書いている。支払いの窓口が1つあれば、あとから配る対象を増やせる
なお、開始から3日後にはすでに攻撃を受けている。 Sözcü(2020年5月7日)によれば、İBB 報道担当は、支払いの仕組みに国外からの攻撃があったことを投稿で知らせた。
今どうなっているか
2026年8月時点で確認できた最も新しい記録は、2025年3月26日の BirGün と T24 である(金額も言い回しもほぼ同じで、共通の配布文にもとづくと見られる)。
2025年3月、この事業は İmamoğlu と関係者に向けられた容疑の1つの対象にされた。 BirGün によれば、İmamoğlu は自身の交流サイトで「Askıda Fatura da suçmuş」と述べ、なぜこの事業をやったのか、なぜ世界で反響を得たのか、なぜこの事業に資金の支えを与えたのか、といった形で捜査の対象にされたことを挙げたうえで、イスタンブールの人々に向けて、余裕のある人はみな収入の少ない市民の請求書を払ってほしいと呼びかけたとされる。T24 は、この呼びかけが刑務所から行われたと書いている。 呼びかけのあと短い間に、数千の寄付する人から合わせて93万6,947リラの請求書の支払いがあったと両紙は伝えている。この容疑がその後どう扱われたか、事業が今も動いているかを書いた出典は無い。
外からの受賞は2021年までの分が分かっている。 BirGün(2021年9月19日)によれば、この事業は米国に本拠を置く IDC の催しで6つ目の賞を受けた。それ以前には、南東欧の地方自治体連合の網(NALAS)が開いた良い実践の集まりでの欧州の「良い実践」の例の区分、IDC CIO 2020 の「事業開発」の区分、持続可能な事業の賞の「社会的な影響/新型コロナへの取り組み」の区分、IDC CIO 2021 の IT 費用効率と事業推進の両方の区分で賞を受けたとされる。同じ記事で İBB 情報処理局の Erol Özgüner は、感染症の前に社会福祉の支援を必要としていた世帯の数が6倍になって25万に達したと述べている。
独立した検証や批判的な記述は、参照した7本のどこにも無い。 自前の取材と読めるのは2020年5月4日の bianet(İBB の文書での説明を引いたもの)と5月7日の Sözcü(İBB 報道担当の投稿を引いたもの)だが、いずれも İBB 側の発信を受けた記事である。2021年と2024年の BirGün は通信社 ANKA の配信で、2025年の2本は İBB 寄りの評価語を地の文に置いている。この仕組みで請求書が払われた世帯が、その後どうなったかを追った記述も無い。
出典
- İBB "Askıda Fatura" Uygulaması Başlattı — bianet(2020-05-04)
- 'Askıda Fatura' uygulamasının ödeme sistemi açıldı — BirGün(2020-05-06)
- Askıda Fatura uygulaması ile 41 bin 883 ailenin faturası ödendi - Sözcü — Sözcü(2020-05-07)
- İBB'nin askıda fatura dayanışmasında 41 milyon liraya ulaşıldı — BirGün(2021-09-19)
- İBB'nin eğitim için ‘Askıda Fatura’ uygulaması devam ediyor — BirGün(2024-08-08)
- İmamoğlu çağrı yaptı, 'Askıda Fatura' kampanyasına binlerce bağış yapıldı — BirGün(2025-03-26)
- Ekrem İmamoğlu'nun cezaevinden "Askıda Fatura" çağrısına binlerce kişiden destek! — T24(2025-03-26)
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